編集者のひとりごと

2023年の投稿

歌えない音

イルミネーションがきらびやかになり
クリスマスソングが街中で流れる季節になりました。


クリスマスソングと言えば,誰のどの歌を思いつきますか?

マライア・キャリー?
アリアナ・グランデ?
山下達郎?

王道のフランク・シナトラやナット・キング・コールの歌う
クリスマスソングも素敵ですね。


ついつい,口ずさんでしまうクリスマスソングですが
先日,気持ちよくある曲を口ずさんでいたら
「なんか上手くいかないなあ」と思う瞬間がありました。


ある部分の音が分からなくなり歌が続かないのです。


特別高かったり,低かったりというわけでもなく,
元の曲を聴きながらだと歌えるのに
自分ひとりで歌おうとすると音が出てこない。


ピアノで音を探してみると,「それらしい」音は見つかります。

ただ,なんだか違う。



もちろん,歌手は音を外しているわけではありません。



ではこの音は?



あまりに気になったので,少し調べてみると
私がとれなかった音はどうも微分音らしい
という結論に至りました。



微分音とは?

普段,私たちに馴染みがあるのは,
十二平均律という,1オクターブを12等分した音です。


ピアノの鍵盤で分かれている音ですね。


ただ,これは1オクターブの音を便宜上12等分しているだけなので,
たとえばピアノの鍵盤にはない
「シとドの間の音」というものも存在するわけです。


つまり,「シとドの間の音」のような
平均律をもっと細かく分けた音が微分音とよばれる音です。


おそらく,私が音を再現できなかった理由は
平均律の音に慣れすぎていて
平均律では再現できない音(微分音)を
聞き取れず,再現できなかったから
ということのようです。



微分音は,平均律に吸収されてしまっているので
微分音に近い平均律の音で歌うこともできますが,
やはり微分音にすることで,微妙なニュアンスが加わって
その歌がぐっと良くなるような気がします。



音楽科担当にも聞いてみました。

   
   時代はさかのぼりますが,音楽CDが出始めたころ,
   ある人に「CDを聴いてみたが今までとなんだか違う,
   どちらかというと前の(アナログ)の方が良かった。
   自分がおかしいのかな」ときかれました。

   「くわしいことは専門家でないので説明ができませんが,
   アナログ音源をデジタル処理する際に容量の関係などで
   カットされる音があるみたいですよ。
   連続したもの(アナログ)と段階的なもの(デジタル)の
   違いみたいです」と答えたところ,納得してくれました。

   色と色との間には無限の色があるように,
   音と音との間にも無限の音がありますよね。

―音楽科担当Tさん



無限の音の中に,
デジタルでは再現できない美しさや心地よさがあるのかもしれません。

今年の冬はちょっと音を気にして過ごしてみようと思います。

歌えない音のイラスト

〈英語担当T〉         

#音楽 #クリスマス #クリスマスソング #微分音 #無限の音

長寿パン

ようやく暑さも和らぎ
秋らしい気候になりました。


読書の秋,スポーツの秋,そして食欲の秋。
皆様はどんな秋をお過ごしでしょうか。


今回は食欲の秋にちなんだ話題です。

先日お腹が空いたので,コンビニに寄ったところ




ロングライフパン




と書かれたパンを発見しました。





Long life パン?





見つけた時は,一瞬
「素材にこだわった美味しいパンなので長生きできます」
ということかと思いました。


それは早速食べなくては! と手が伸びましたが,
まずはちゃんと意味を調べてみることに。

すると
どうやら,寿命が延びる魔法のパンではないようです。



Long lifeには「長寿」の意味のほかに
「(食材が)日持ちする」という意味もあります。

つまり,このパンは
「時間が経っても食べられます」ということですね。



長寿パンは幻に終わりました。




ちなみに,long lifeの語順を逆にした
lifelongという単語もあります。

こちらは「一生の」という意味ですが,
例えばこんな言葉があります。




lifelong calling




calling? 電話?

一生電話がかかってくるなんて怖い話ですが,
やはりこちらも違います。



callingには「呼ぶ」「電話をかける」以外に
キリスト教で「(神の)お召し」という意味があります。
神様に呼ばれるということです。


つまり、lifelong calling
lifelongの「一生の」と
callingの「(神に)呼ばれる」で
天職を意味します。



神様に「あなたはこれをしなさい」と言われたものが
その人にとっての天職ということなのでしょう。

編集者のロングライフパン

〈英語担当T〉


#英語 #食べ物の英語 #長寿パン #天職

Hope (  ) Eternal, Summer of Corruption, (  ) from Innocence, A Winter’s Tale

これらはスティーブンキングの小説作品の副題です。
主題とあわせると

Rita Hayworth and Shawshank Redemption-Hope Springs Eternal
Apt Pupil-Summer of Corruption
The BodyFall from Innocence
The Breathing Method-A Winter’s Tale

というタイトルで,
この4作品が1冊のペーパーバック本に収められており、
副題には四季を表すspring,summer,fall,winterが使われています。

1つめの作品は『ショーシャンクの空に』として,
3つめは『スタンド・バイ・ミー』として映画化さています。

私は『ショーシャンクの空に』が好きで,
学生時代にこの原作(英語版)を辞書を片手に読みました。

この原作の副題は
Hope Springs Eternal(希望は永遠に湧き出る)。

springには「春」という意味のほかに「湧き出る」という意味があります。

『ショーシャンクの空に』では,
過酷な状況でも「希望」を持ち続けようとする主人公が描かれていますが,
この副題は,希望がspring「湧き出る」のと「春」をかけているのですね。

3つめ『スタンド・バイ・ミー』の副題は
Fall from Innocence(純心から落ちる)。

fallには「秋」という意味のほかに「落ちる」という意味がありますね。

大人になるにつれ,いつしか童心を忘れてしまうことを,
fallを用いて表しているのでしょうか。

原作の小説は映画とはまた違った味わいがあります。
日本語訳版も出ていますので,
まだ読まれていない方はぜひ手に取ってみてください。
<英語担当S>

#英語 #小説

五月雨は何色か

東京も梅雨入りし,通勤には傘が欠かせなくなった。
置き忘れても後悔が小さく済むように,安価な傘を持ち歩く。
鉄道会社に寄贈した傘は二桁に達したと思う。

先日は古文の校正で『源氏物語』を扱い,その奥深さに目をつぶっては静かに唸った。
決して難しくて唸った訳ではない。
ふと,学生時代には名著『あさきゆめみし』(講談社)にお世話になったことを思い出す。

多くの教科書で掲載される『源氏物語』の序文「桐壺」にも,その内面描写に光るものがある。

「はじめより我はと思ひ上がり給へる御方方,めざましきものにおとしめそねみ給う。同じほど,それより下臈の更衣たちは,まして安からず。」
(現代語訳:初めから我こそは(寵愛を受けるべきだ)と自負しておられた女御の方々は,このお方(桐壺)を蔑んだり妬んだりなさる。同じ身分,またはそれより低い地位の更衣たちは,女御の方たち以上に(嫉妬の)気持ちがおさまらない。)

自分ではない誰かが時流に乗ることで,多かれ少なかれ心はざわつく。
それが自分(女御)よりも身分が低い者(更衣)であれば,面白くはないものの「自分の方が優れている」と慰められる。

注目すべきは,自分(更衣)と身分の近い者(更衣)が時流に乗った時だ。

「まして安からず」

もしかしたら自分にも(寵愛を受ける)チャンスがあったのかもしれないと思うばかりに,その落差から大きな反発が生まれる。友人と宝くじを一枚ずつ買って,友人だけが一等を当てた感覚だろうか。

そんな(更衣が天皇の寵愛を受けるという起こり得ない)浅い夢だからこそ怨念は尾を引き,梅雨に負けず劣らず,湿度の高い嫌がらせが桐壺更衣に降りかかる。

「結びつる 心も深き もとゆひに 濃きむらさきの 色しあせずに」(左大臣から桐壺帝への返歌)

——桐壺更衣は何色だろうか。

やはり桐の花よろしく紫色が似つかわしい。
だとすれば,桐壺更衣と対立した他の更衣たちは紫色と対立する補色,すなわち緑色だろうか。

ちょうど「五月雨は緑色」と歌った村下孝蔵は,そのアルバムを『初恋~浅き夢みし~』と名付けたのは偶然だろうか。

浅い夢だからこそ消えることのない想いは,今も昔も変わらないのかもしれない。

源氏物語の序文

〈国語担当M〉

面白き こともなき世をおもしろく (  )ものは心なりけり

司馬遼太郎『竜馬がゆく』での高杉晋作の最期の描写をご紹介します。
結核の病状がいよいよ重くなった高杉が、辞世の句をよもうと筆をとります。

「面白き、こともなき世を、おもしろく」
辞世の上の句をよんだ。下の句に苦吟していると、看病していた野村望東尼が、
住みなすものは心なりけり」
と詠んだ。高杉はうなずき、
・・・面白いのう。
と言って静かに眠った。それが高杉の最期であった。

(文春文庫『竜馬がゆく』表記ママ)

天才革命家として破天荒な活躍をした高杉ですが、
27歳という若さで病没しました。
野村望東尼とは、高杉らの討幕運動を支援した幕末の女流歌人です。

私は詩歌の心得などはまったくありませんが、
高杉らしい「やんちゃ」な上の句に対して、
望東尼が優しく、かつ風雅に下の句を呼応させるという描写が印象的でした。

国語担当にも聞いてみました。

(彩る)ものは心なりけり でしょうか。
心持ち次第で極彩色の毎日が送れ…たらいいな、と思っております、はい。
「色取る」とも書けますが、個人的には「彩る」のほうが
字面が可愛くて好きです。

ちなみに「彩」は中学学習漢字ですが、
「いろど-る」は中学では学習しない読み方です。
無理やり国語担当ぽい豆知識を入れ込んでみました。

――国語科担当Kさん

編集者としては、
「面白き」「おもしろく」、
「上の句をよんだ」「と詠んだ」などの
閉じ開き表記の不統一も気になるところです。

一読者としてはこれも味に思えます。

皆さんはどのような下の句を思いつかれたでしょうか? ご意見いただけますと幸いです。
〈英語担当S〉

桜と鶯

#国語 #俳句 #短歌 #小説

ベテルギウスの大きさは(  )の公転軌道と同じくらい

ベテルギウスは,冬の星座であるオリオン座の左上にある,赤っぽく見える星です。
この星は巨大で,その半径は何と太陽から木星までの距離に匹敵します。
つまり,ベテルギウスの大きさは,木星の公転軌道と同じくらいということです。
(公転軌道:惑星が太陽を中心に一周した際に描く円)

太陽から木星までの距離

太陽から木星までの距離は約7億5千万kmです。
これは光で約40分かかる距離です。新幹線(時速300km)だと約280年かかります。
道中を楽しみたいなどと在来線に乗ったなら1000年近くかかります。

木星

太陽から木星まで――在来線で1000年かかるこの距離で,ようやくベテルギウスの「半」径です。
ぶらり在来線ベテルギウス一周旅行に出かけようものなら,ざっと6000年かかります。
この一周旅行を終えるまでに,人は何回輪廻を繰り返せばよいのでしょうか。
日頃の行いによっては道中,畜生道に堕ちて獣や虫として生き死にを繰り返すかもしれません。

草をのぼるテントウムシ

もちろん,ベテルギウスは星なので球体です。
半径や外周の距離感ですら途方もないのですが,立体的な質量感となると…。
私には想像することすら難しいので,理数担当者にも聞いてみました。

ベテルギウスは脈動変光星といって,大きさが変化する星です。
また,最近の研究では従来の推定の3分の2程度のサイズであるとも言われています。
定まらないので,テスト問題には使えませんね。

――理数担当Nさん

テストにも収まりきらないスケールのようです。

このような天体を無数に内包するという宇宙の規模とは一体どのようなものなのでしょうか。
人知をはるかに超えた領域が目の前の夜空いっぱいに広がっていることに,
ただただ圧倒されるばかりです。

皆さんはいかが思われますでしょうか。ご意見いただけますと幸いです。
〈英語担当S〉

星空

#理科 #星 #畜生道